大学と企業の枠を超えた学び合いにより、
未来を拓くアイデアを提案・実現できる人材を育成するのが、「次の環境」協創コースです。
Vol.3では、コースにおいて目指す人材となるために欠かせない科目「フューチャーデザイン演習」に潜入しました。
所属も年齢もさまざまな受講者たちが各々の知見を掛け合わせ、
知識がアイデアへと昇華する過程を体験できるのが、本授業の特徴。
社会課題を解決する可能性を秘めた、まだ世に出ていない新技術のアイデアが誕生するまでに密着しました。

フューチャーデザイン演習(FD演習)とは?

同志社大学大学院生とダイキン社員がグループになって共修する、ワークショップ形式の演習科目です。目的は、自然科学と人文・社会科学の知見を融合させ、環境問題を解決する先見的なアイデアを創出すること。未来社会を生きる人々の視点に立ち、今後人類が抱えるであろう課題を予測。それを解決するために、現在開発されている技術をもとにして新技術のプロトタイプを考案します。

過去のFD演習で生まれたアイデアを
見てみよう!

受講者の描く未来デザイン

FD演習へ潜入!

2023年後期のFD演習のテーマは「2050年のカーボンニュートラルが実現した社会において、
資源・環境制約と調和する空調機のイノベーション」を検討するというもの。
週に1回・計4回の集中講義として実施されました。

テーマ

2050年のカーボンニュートラルが実現した社会において、
資源・環境制約と調和する空調機のイノベーション

潜入レポートでは、Aグループの2人にお話を聞きました。

同志社大学 総合政策科学研究科奥野さん

「科学と良心」の授業で理系の方々とディスカッションし、多様な分野の知識を掛け合わせる面白さを実感しました。FD演習では、「科学と良心」よりもさらに本格的なグループワークに取り組みます。ダイキンで技術職として働く方々と技術のアイデアを共に育てる機会はなかなかないので、これを機に理系の視点を身に付けて、自身の専門研究に活かしたいです。

ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター所属日下部さん

前期に受講した授業で、カーボンニュートラルの技術に対する石川先生の見解に惹かれ、今回も期待感を持って履修しました。研究職として働く上で、今後挑戦することになるであろう「テーマ創出」や「新技術のアイデア設計」を模擬体験できる貴重な機会となるはず。持てる知識と経験をフル活用して臨みたいと考えています。

第1回社会変化仮設を立てる

まずはグループに分かれ、これから4回を通じて共に学ぶメンバー同士で自己紹介。グループごとに社会変化仮設を立てて発表するという第1回のゴールを目指して、早速話し合いが始まります。

受講者には、事前に「スキャニング法による社会変化シナリオの作成」という個人課題が課されていました。スキャニング法とは、新聞記事や統計データから科学技術や社会のトレンドを把握することで、未来における変化の兆しを読み解く手法です。過去1年間にわたって新聞記事から収集した社会変化のきざしを100個以上集めたスキャニングマテリアルを読み、「未来の変化の可能性」を3パターン考え、文章化するというのが課題でした。

各々が課題で考えた案を組み合わせてひとつにまとめるために、FD演習で使われるのは「KJ法」です。(※下記参照)。1つの付箋に1つずつアイデアを書き、ジャンルごとに分類することで、それぞれのアイデアの関連性を可視化します。Aグループで特に多く集まったのは、エネルギー開発に関する仮説でした。年を追うごとに深刻化する気候変動や環境破壊に歯止めをかけるため、今後さらにクリーンなエネルギーの開発が加速して進むだろうと、メンバー全員が同じ見解を持っていたようです。他にも、「ウェアラブルデバイスが発展して人の体調を管理する」「VRが非日常ではなく日常になる」などさまざまな意見が飛び交います。多方面に膨らんだアイデアを社会変化仮説としてまとめあげるまで、熱を帯びた議論はしばらく続きました。

考案された4つの仮説は各自が資料としてまとめ、発表しました。Aグループが出した4つの社会変化仮説はこちら。

  • 2040年、AI・IT技術の進化により「医療inレジデンス」の環境が実現。メタバース空間に、住宅にいながら診断・治療を受けられるメタバース医院が開業する。
  • 人口増加による食糧不足や牛のゲップによるCO2排出の対策のため、人口肉が一般的に。生体の肉は価格が跳ね上がり、格安牛丼チェーン店が高級レストランになる。
  • 新しいクリーンエネルギーの登場が地球温暖化を防ぐ。気候変動により破壊が進んでいた自然の景観が保たれると同時に、国や地域の文化が守られる。
  • 買い物や食事など、VR空間で生活を送ることが当たり前に。物に対する価値よりも、ライブイベントなどのリアルな体験の価値が向上する。

奥野さんのコメント

理系のテーマについて真剣に考えるのは、高校生の時以来だったので、事前課題で入念に下調べをして臨みました。理系の方々の議論についていけるか不安でしたが、グループのメンバーは初歩的なことから丁寧に教えてくれました。歴史的都市や町並みといった文化財の保護について研究する身としては、将来的にエアコンの室外機を無くせたらいいなと考えていたのですが、日本を代表する空調機メーカーで働くダイキンの社員の方々から、直々に室外機の必要性を教えてもらえたのも大きな収穫ですね。反対に、技術者としては室外機が景観を損なうという観点を新しく感じたそうで、優れた見た目の室外機が開発できればという話に。こうして何気ない会話から、アイデアの種が生まれていくのだと感じました。

コラム KJ法とは

文化人類学者の川喜田二郎が、データをまとめるために考案した手法。イニシャルを取って「KJ法」と名前が付きました。それぞれのデータ(アイデア)の一つひとつをカードに記し、並べ替えやグループ化をすることで、アイデアを効率よくまとめることができます。FD演習では、1グループにつき1つの大きなホワイトボードと付箋が用意され、大胆な書き込みや並び替えをすることで、脱線することなく効率的に議論が行われていました。

第2回未来技術アイデア

第2回では前回よりも焦点を絞り、技術面における変化を予測。さらにその予測から、未来社会を変える新技術のアイデアを発案することが目的です。

今回の事前課題の内容は、研究開発や社会普及が進められている取り組みをまとめた「技術資料集」を読んで、未来社会の課題を解決する「新技術アイデア」2件を発案することでした。演習の前半では、持ち寄った新技術アイデアとともに、各受講者の専門知識や将来に対する問題意識を共有。それをもとに、課題を解決するための仮説をグループごとに設定します。

演習の後半では、第1回で考えた社会変化仮説と前半で考えた課題解決のための仮説を掛け合わせ、未来社会で役に立つ技術を考え出します。ポイントは、未来社会の状況を踏まえた「仮想将来世代」の視点に立つこと。技術の機能的な利点だけでなく、経済効果や倫理との関係なども意識する必要がありました。

第3回プロトタイピング

プロトタイピングとは、アイデアや仮説を検証するために具体的な形に落とし込むこと。FD演習では実際のモノを作る訳ではなく、課題解決に資する未来の技術を用いたデバイス・システム等の設計書や構想図を作成します。

とはいえ、いきなりプロトタイピングに取り掛かるのは少々難題。まずは、ゴールとする技術の1歩手前である「ブレークスルー技術」を考えます。授業前半では、第2回で各々が考えた未来技術アイデアの中から、演習テーマ「2050年にカーボンニュートラルが実現した社会において、資源・環境制約と調和する空調機のイノベーション」に当てはまる技術はどれなのかを話し合いました。
ピックアップした技術を組み合わせたり改善したりすることで、Aグループが考えた「ブレークスルー技術」は次です。

後半からは、いよいよプロトタイピングの開始。話し合いによって「ブレークスルー技術」の詳細を検討し、具体的な形を作り上げていきます。第4回の最終発表に向けて資料を作成しながら、2050年に実現可能なデバイスの具体像や研究開発計画を明確にしました。

日下部さんのコメント

正直なところ、初めは1つの技術にまとめられるのか不安でした。アイデアをただ寄せ集めた段階では、どれも実現が難しいように思えたからです。しかし、達成するべき未来社会の課題に、各々が「実現したらいいな」と希望することを織り交ぜて考えると、デバイスの核が決まっていきました。そこに、それぞれの専門知識や1日目と2日目で吸収した見解を肉付けしていくと、みるみるうちにアイデアが膨らんで、具体像を描き上げることができました。メンバーの個性も活かした、キャッチーなアイデアが完成したと思います。

第4回成果発表会

いよいよ4回の学びの集大成である、成果発表会の日を迎えました。テーマとなる「2050年のカーボンニュートラルが実現した社会において、資源・環境制約と調和する空調機のイノベーション」に基づき、グループで考案したデバイスを1グループ25分の持ち時間(発表:10分/質疑応答:15分)で発表します。
Aグループの考案したデバイスは、「カーボンにゃートラルエアコン」。体と心の健康を実現する、歩くネコ型空調機です。

Aグループが予測した2050年の未来は、センサ機能やウェアラブルデバイスが発達し、個人の生体情報の収集が活性化するというもの。身体面・精神面の両方で健康を保つため、自分の暮らしをデータに基づいて最適化したいという人々が増加すると考えました。
そこで考案したのが、居住空間の温度・湿度などの最適化と、ペットを飼うのと同等の癒し効果を同時に実現する「カーボンにゃートラルエアコン」です。

猫型のロボットは、部屋の状態を検知するためのデバイス。空間を自由に歩きながら、温度や湿度、におい、照度などのデータを取得するとともに、生体情報に基づいてユーザーの健康状態を見守ります。得られたデータはAIが解析して、部屋に設置されたエアコンに、ユーザーが最も心地よく感じられる室内環境に最適化するための指令を出します。

また、猫が歩くのは、癒し効果を求めたことだけが理由だけではありません。猫の足には肉球型発電装置が装着されており、歩くたびに生まれる肉球と地面の間の圧力によって電力を作り出すのです。猫が稼働するための電力は自己発電されるため、使用するエネルギーを省力化できます。

肉球型発電装置以外にも、「データを活用したエアコンの最適運転」や「ロボットの自然な歩行」に関する技術など、システムを実現するための細かい仕様を考案しました。

発表が終わると、質疑応答へ。ゲストとして聴講に来た同志社大学の教員とダイキン社員や受講者から、次々と質問が挙がりました。

質疑応答の一場面
教員
「カーボンにゃートラルエアコンを増やすと、地球全体のカーボンニュートラルにはどのように貢献できるのでしょうか?」
Aグループ
「エアコンの最適化運転ができるため、無駄なエネルギー消費が減ります。ネコは自家発電できるため、余分な電力を消費せずに済みます。」
受講者
「ネコという動物の特徴、習性を利用した機能も何か考えられないでしょうか?」
Aグループ
「ネコを抱いた人間の生体情報を収集する、ネコ自体に暖房機能を付けて寒いときに近寄ってもらうなど、いろいろなアイデアが考えられると思います。実現するための具体的な技術やリスクを調べた上で、検討が必要だと考えています。」

FD演習を終えて

奥野さんのコメント

新たな技術の開発や設計は、所属する研究科で取り組むテーマとかけ離れているため、私には難しいと思っていたのですが、グループの方と一緒に取り組む中でそのイメージが大きく変わりました。また、文化財、歴史的都市や町並みの保護の研究において、環境面や技術面の視点に気付くことができました。今までは何となくのイメージで技術について考えていましたが、自分が固定観念として「無理だろう」と考えていたことも実現できるほど、テクノロジーは大きな可能性を抱いているというのは、今回の演習で最大の気付きです。今後取り組みたいのは、新技術と文化財や歴史的都市や町並みの保護を両立させる方法の研究。カーボンニュートラルの実現などに向けた新技術を、歴史的都市や町並みの景観を壊さずに社会実装できるような方法を探りたいです。

日下部さんのコメント

日常の業務とは異なり、前提となる技術や条件がないため、とても広い枠組みの中で自由に発想を膨らませることができました。また、立場が上の方に決定を委ねるのではなく、皆が積極的に意見を出し合ってアイデアを展開し、それを組み合わせて終着点へ持っていくのは新鮮な体験でした。同じグループで4回の演習を続けたからこそ、メンバーの間に共通の認識が積み重なり、深い議論ができたのではないかと思います。また、もう一つ痛感したのが、一人ひとりが社会動向や技術の進展に関する幅広い引き出しを持つことの重要性。ただ専門性を突き詰めるだけではなく、社会的な事象も広く学び続け、いずれ仕事でも訪れるアイデア創出の機会に備えたいです。

過去のFD演習で生まれたアイデアを
見てみよう!

受講者の描く未来デザイン

FD演習のゴールは、ただ新技術の案を出し合うことだけではありません。社会課題を解決できる技術創出のプロセスの疑似体験を通して、アイデアを生み出すための「知的生産技術」を習得することにもあります。4回の授業を通じて、0から未来社会のイノベーションを創出した受講者たち。演習で培ったデザイン思考やグループで協創する力は、きっと研究や仕事など各々の場所で発揮されるのでしょう。

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