「次の環境」協創コースの目的は、文系・理系を融合した観点から未来の社会づくりを担う社会イノベーターを育てること。
これまでにないアイデアを創出するために、同志社大学の大学院生とダイキン工業株式会社の社員が共に授業を受け、
新たな領域に視座を広げています。

今回は、ダイキン工業で実施されたミニワークショップに潜入しました。
ワークショップでは、ダイキン工業の社員である受講者に、社会人として大学で学ぶ意義を伝えることを狙いとしています。
それとともに社会人視点からの学びのニーズを汲み取り、大学院生との授業に活用する予定です。
開催場所であるダイキン工業の最先端施設「テクノロジー・イノベーションセンター」には、
若手からベテラン、技術部所属や人事部所属など、さまざまな社員が集まりました。

同志社大学とダイキン工業株式会社

2020年3月25日、包括的連携協力に関する協定書を締結した同志社大学とダイキン工業株式会社。包括協定のもと、両者は一丸となって2つの事業に取り組んでいます。
1つ目は地球環境問題の解決に資する技術開発。京田辺キャンパスに構える「同志社-ダイキン「次の環境」研究センター」において、CO2の資源化に向けた研究を進めています。
2つ目は、人材の育成。本コースにおける授業を通じて、自然科学の知識と人文・社会科学の知識をあわせ持ち、文理両面の視点から環境問題に取り組むことのできる人材を養成しています。

開催場所

ダイキン工業株式会社
テクノロジーイノベーションセンター(TIC)

2015年に設立されたダイキン工業株式会社における技術開発のコア拠点。専門領域の異なる約700人の技術者が集結し、多様な企業・大学・研究機関と連携しながら、新たなモノづくり・コトづくりを生み出す「協創」の場です。世界最先端の実験設備とコミュニケーションを促すオープン&フラットな環境をあわせ持つ、このイノベーティブな空間が今回の舞台です。

ワークショップに潜入!

第1部
14:00~15:00講義
~ダイキン工業社員がプログラムに参加する意義~

ワークショップの第1部では、同志社大学の教授によるミニ講義が2コマ行われました。
技術系社員の多いダイキン工業株式会社ですが、今回の講義は人文・社会科学系の内容。技術者が普段の業務では触れる機会の少ない分野の学びを通して、ダイキン工業の事業・取り組みと社会の結びつきを発見することが狙いです。

講義①「グローバル企業に必要な世界認識:トルコからウクライナ戦争を見る」

内藤正典教授 画像
担当講師:グローバルスタディーズ研究科内藤正典教授

東京大学教養学部教養学科(科学史・科学哲学分科)を卒業後、 東京大学大学院理学系研究科地理学専攻を中退し、一橋大学の博士課程(社会学)へ。その後、東京大学助手、一橋大学助教授、教授を経て、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授に着任。専門は中東・イスラム地域研究、移民・難民問題、多文化共生論。

講義のテーマは、世界中が注視しているロシア・ウクライナ戦争。
本題に入る前に内藤先生が注意深くお話しされたのは、地理を学ぶ大切さでした。「ダイキン工業株式会社が工場を持つトルコという国が、戦場の真向かいにあることを知っていますか?」という問いかけに、多くの受講者が驚いた表情を見せました。グローバル企業は国際情勢の影響を直接的に受けます。したがって、資源や材料の輸入地、輸送ルートを頭の中に描き、世界の出来事と結びつけて俯瞰的に見渡す力が重要だとお話がありました。

「ロシア・ウクライナ戦争に関する報道は誰もが目にされていることだと思いますが、地図で戦場となっている場所を見たことはありますか?」内藤先生の呼びかけに、ウクライナ周辺の地図を映した前方のスライドへ注目が集まりました。ロシアから南下した場所にはウクライナがあり、さらに南下すると見えたのはトルコです。
近隣国のロシアとウクライナが戦争を繰り広げる中、経済的つながりや侵攻の対象になり得る危険性からどちらにも肩入れできないトルコの状況が解説されました。
また、ウクライナとトルコの間にある「黒海」も現在の情勢を読み解くキーポイントとなります。戦艦の侵入を防ぐ機雷が撒かれ、黒海に面する国々からの輸出が滞ったことが、世界中で連日問題になっているさまざまな価格高騰の原因の一つとされています。地図を見ると、黒海がウクライナにとって限られた輸出ルートであり高い重要性を持つことが明らかになりました。

日本にいると意識するのは難しいですが、会社の生産拠点のすぐそばで、世界平和を脅かす戦争が行われています。世界各地に生産拠点を持つ大企業だからこそ、国際情勢を「自分ごと」として捉える意識、そして常に学び続ける姿勢が大切だ、というメッセージで内藤先生は講義を締めくくられました。

講義②「イノベーションにウェルビーイングはどう関係するのか ~良心・ダイバーシティ問題から~」

飯塚まり教授 画像
担当講師:ビジネス研究科飯塚まり教授

同志社大学文学部文化学科心理学専攻を卒業後、スタンフォード大学のMBA(経営学修士)、京都大学の博士課程(人間・環境学)へ。
外資系企業、世界銀行(ワシントン)、アジア経営大学院助教授、立命館アジア太平洋大学教授を経て、同志社大学大学院ビジネス研究科教授に着任。
専門は、経営戦略、組織・人材開発、ビジネス倫理。

飯塚先生の講義は、二つの体験を中心に行われました。
まず初めに行われたのは、「『今日起きた良いこと』を三つ考えて、近くの人に話してみる」という取り組みです。年齢も所属もバラバラな受講者たち。しかし、話し始めるとすぐに教室全体が活気のあるムードに包まれました。
これは、ポジティブサイコロジーに関するエクササイズのひとつなのだと飯塚先生は明かします。ポジティブサイコロジーとは、人間の長所などのプラスの特性や、幸福感や感謝等のポジティブな感情を科学的に研究する学問のこと。社員一人ひとりの心持ちを良い状態に導くことが、組織全体の生産性や企業価値の向上につながるのだと語られました。

二つ目は、マインドフルネスの体験です。マインドフルネスとは、過去や未来に対する不安・ストレスから自身を解放し、「今」に心を集中させること。そのエクササイズとして、まず飯塚先生は、手を開いて自分のよく見える位置に持ってくるよう受講者に伝えます。
「生まれたばかりの赤ちゃんか、初めて地球にやって来た宇宙人になったつもりで、初めて見るもののように手を観察してみましょう。どんな色が見えますか。どんな質感ですか。光っていますか。乾燥しているところはありますか。5つの突起がある変な形ではないですか。」
さまざまな角度からじっくりと手を眺め、5分程度経過したところで観察は終了しました。受講者からは、生まれてから毎日見てきたはずなのに、新たな見方をすることで自分の手が「未知の物体」のように見えたという声が聞こえてきました。現在シリコンバレーでも重要視されている、マインドフルネス。そのポイントは、今まで「観えている」と思っていたものから、「観えていない」ものを発見できることだと飯塚先生は話します。「先入観や他者の評価を加えずに、素の状態で『今』を観るというマインドフルネスの経験は、イノベーションを生み出すきっかけへとつながるのです。」

「ウェルビーイングを実現するためには、まず体験することが大事です。簡単なこと、ちょっとしたことで人間の心理状態は変わることを、今日の講義で実感していただければ何よりです」。飯塚先生がそう締めくくったところで、講義は終了しました。受講者たちがウェルビーイングを実現する足掛かりを見つけたことは、終了後の和やかなムードからもしっかりと伝わってきました。

第2部
15:00~16:00グループディスカッション
~業務で必要な知識と豊かな生活のために必要な知識~

第2部では、2つのグループに分かれてディスカッションを行いました。
Aグループには主に人文・社会科学系の学びに関心がある受講生が、Bグループには自然科学系について知見のある受講者が集合。それぞれのグループに付いた同志社大学の教授を中心として話し合いが進みました。各グループとも初めは控えめな様子でしたが、意見が出るにつれて熱を帯びていき、終了時間のギリギリまで自由で活発な議論が繰り広げられました。

第3部
16:00~16:30総括・意見交換
~今後の「次の環境」協創人材育成プログラムの展望~

第3部で初めに行われたのは、ディスカッションの振り返りです。
それぞれのグループに付いていた担当教員が、第2部で行った議論の内容を全体に共有しました。

Aグループのまとめ

我々のグループでは、人との交流をテーマにさまざまな議論が飛び交いました。中でも盛り上がった議論は、答えのない問いを追求するために人と意見を交わすことの大切さについてです。
ダイキン工業の事業内容を例に、例えば『空気を作る』というテーマについて話すとします。理系的な観点からであれば、分子や温度などの科学的な要素を真っ先に考えてしまいますが、文系的な観点からは人間の視覚や聴覚で感じるものを議題に据えることが多いです。そこで意見を組み合わせると、『聴覚や視覚で心地よい空気を作るための科学的な要素は何か』と話が広がっていきます。異なる意見を融合させることで、先進的なアイデアが生まれるということは、『次の環境』協創コースの授業でも多くの人が体感してきました。
一方で、全く価値観の異なる相手と協働することが必ず成功につながるのかと問われると、そう簡単ではありません。目的や意思を共有し、同じ土俵の上で話し合うことで初めて他者との協創は成立します。異なる価値観を持った人と共に歩むためには、思いを分かり合うための「共通言語」を見つけることが重要だと結論づけました。

Bグループのまとめ

我々はダイキン工業の今後に関する議論を行いました。その中でまとまった3つの目標を共有します。
1つ目は『新規事業を立ち上げられるようなアイデアを作る』です。新たなアイデアを作り出すことの難しさは皆が理解しています。ただアイデアが舞い降りてくるのを待つのではなく、日々の業務の中で『気づき』を積み重ね、熟成させることがアイデアを創出する近道ではないかと議論がまとまりました。
2つ目は『他のメーカーでは成し遂げられないことを達成する』です。現在のダイキン工業が持つ価値の一つとして、内藤先生が『エアコンの耐久性』を述べました。気温が高く空気が乾燥している中東地域の国では、ドアを開けたまま使用したエアコンが壊れてしまうという事例が多発しているようです。そのような中、ダイキンのエアコンは壊れにくいと評価されています。グローバルな視点で、そのような独自の価値を増やしていくべきだと話しました。
そして3つ目は、『他のメーカーを牽引するリーディングカンパニーになる』こと。特に持続可能な社会づくりに不可欠な『カーボンニュートラル』に関する取り組みにおいてリーダーシップを発揮したいという意見が多くの社員からあがりました。

共有が終わると、多くの受講者が手を挙げて質問や感想を発言しました。両グループの意見が、新たな議論のタネとなったようです。
盛んになる議論の中で、特に受講者が意見を交わし合ったテーマは「交流」についてでした。

受講者

Aグループの話に出ていた『空気をつくる』という我々の事業内容について、もう一度捉えなおしたくなりました。心地よい空気を作るためのヒントとなるのは、『Face to Face』(顔を合わせて話をすること)の大切さだと思います。今日このように皆さんと顔を合わせてワークショップを進める中で、『Face to Face』はやはりオンライン会議とは異なる価値を持つと感じます。

オンライン会議は便利ですが、やはり対面の議論とはコミュニケーションの質が異なることを感じます。職場における座談会をオンラインで1年間ほど行っていたのですが、ほとんど意見が出ませんでした。しかし、昨日対面で実施すると次々と意見が上がったのです。同じ空気を共有すること、それからアイコンタクトができることなどもコミュニケーションの質を上げるために重要だと考えます。

受講者
受講者

コミュニケーションの質はとても大切ですよね。職場をいろいろな人が活躍できる場にするために、社員が気軽に意見を発信できる環境をつくりたいと常々考えています。ただ形式だけの『交流の場』ではなく、個人の思いを共有して高め合える『場』は企業にとって必要なはずです。

SDGsやダイバーシティの考え方の普及とともに、近代以降日本に根付いていた「集団主義」は褪せていき、「個の価値」が重視される時代に変化しています。個のパフォーマンスを高めるために必要なのは、居心地のよい環境を提供すること。そして、居心地のよい環境をつくるためには「交流」が重要な要素となります。コロナ禍を経てその方法が多様化する中、改めて「交流」の在り方を考え直す意義が感じられる議論でした。

ワークショップ終了!

議論が大いに盛り上がる中、終了時刻を迎えワークショップは幕を閉じました。
3部の中で上がったさまざまな受講者の意見からは、普段なかなか汲み取ることのできない社会人視点の学びのニーズが抽出できました。汲み取ったニーズに応えながら新しい視点を反映することで、「次の環境」協創コースの授業はより多様な知見を得られる内容に進化します。より多角的な観点が導入された学びによって、さらに視野を広げた学生は、どのようなアイデアを生み出していくのでしょうか。今後の「次の環境」協創コースの進展に期待が膨らみます。

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